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卒業生の声

人生いろいろなのだろうから

北原尭明(83期 2009年3月卒業)

皆様はじめまして、僕は今年度武蔵を卒業し、新たに同窓会に加わることとなった者であります。この度会報に寄稿する機会を頂きまして、新しい生活が始まる今、気持ちの整理も兼ねて、僕が武蔵について感じたことなどをここに書き留めておきたいと思います。

武蔵は教養主義の学校である。このことに気付いている在校生は、おそらく少ないと思われます。受験期に周囲で盛んに言われていたことは、武蔵の授業は受験には不利だというものでした。僕はこの事について否定するつもりはありません。音に聞く他校の受験対策や、塾の講義内容と比べると、そう思ってしまうのはしょうがないでしょう。あまりこの話で字数を使いたくないので割愛しますが、まとめると、武蔵生が武蔵と受験勉強とを比べる際に必要なことは、受験を受験と潔く割りきってしまうことだったのだと、今思い返しています。しかしながら、それにつけても、卒業し振り返ってみて気付くのが、武蔵の幅広い豊かな教育です。学問の本質を狙った授業が多いのはこの学校の特色でもありますが、それを支える先生方のどうでもいいような話。それは魅力的であったりなかったりしますが、どちらにせよ一見狭い世界のように感じられるものでした。事実しばらく経つと忘れてしまい、日常の中に埋もれて行くのが大半です。しかしその忘れられていた時間は、思いもよらない瞬間、しばしば全く違った分野において知恵や知識として顔を出してくる。僕にとって武蔵の良さが実感できる時のひとつとして、そのような自分の持っている情報が、あの先生の言っていたことだ、と思い起こす時が挙げられます。それは意識しなければ気付かないことですが、おそらく脳ミソのどこかで、そういった知識はまだまだ沢山その時を待っているに違いありません。これぞ身に染みているといったことでしょうか。あまり胸を張って言うことでもないのですが、僕はあまり授業中に寝ようと思わない生徒でした。そのせいか、人よりその瞬間が多いような気がしますし、それは誇れることのような気すらします。賛否両論あって然りですが、いずれにせよ武蔵のこういった環境が、僕の人格形成に対して深く影響を及ぼしているのは間違いありません。

さて、それはそれとして、僕が高校時代に考え続けていたことを今、ここでまとめておいておきたいと思います。それは「二つの文化」と呼ばれるものです。「二つの文化」とは、C.P.スノーが1959年に提唱したもので、二つとはこの場合「文系」と「理系」を指します。きっかけは忘れてしまいましたが、僕が彼の著書『二つの文化と科学革命』(みすず書房 1967)と出会ったのは、丁度自分の文理を決めるタイミングだったように記憶しています。彼が主張するのは、文系人と理系人の相互理解の乖離、すなわち「二つの文化」間の衝突、あるいは無理解についてでした。おそらく皆さんも暗黙のうちに理解している話でしょう。卑近な例として、僕自身がそれをよく感じるフレーズには「ああ、あいつは○系だから」というのがあります。今はもう慣れた感じが否めないそんな話。しかし、当時の僕には衝撃的な話でした。どちらかに属しなければならないことがとてつもなく嫌になったのです。しかし選択の日はやってきてしまう。

僕は世間でいう所の「文系」の人間でした。実際そんな成績の取り方でした。しかし僕は高校で「理系」を選択しました。周囲は驚いたものです。そして案の定というか、僕はそれ程優秀な生徒ではありませんでした。しかし今思うのは、例え「文系」を選んでいたとして、それを後悔せずにいられたかということです。「理系」の授業が提示したその先の道は、無限の奥行きを感じさせる、とても興味深いものでした。

文理の選択がそれ以上の意味を持つことは、選択者の可能性を閉ざすことに相当すると思います。僕自身それが何より嫌でした。長い人生を考えれば、それほど不愉快なものはありませんし、このような風潮は決して看過できるものではありません。だからこそ武蔵の教養主義はとても意義のあるものだと思うのです。それはときに、文理の選択においては更に惑わすものだとしても、です。武蔵の授業を花畑と喩えれば、僕はそこをあちこち飛び回る蝶になりたかったといったところでしょうか。引用が綺麗過ぎますか。

今となっては、文理間の意思疎通が不可能であるとか、僕は全く信じていません。人間は人間ですから。これから僕は経済を勉強しようとしています。我ながら軸の通ってないような歩みですが、それなりに筋は通っているようにも思います。そしてそれをあれこれ思うのもこれを最後にしたいと思います。折しも現在、金融危機により世界システムの不備が露呈しました。一原因は「分業」間の無理解ではないかと推察する次第であります。

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