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トップ 校長対談「学びの土壌」校長対談「学びの土壌」第7回(後編)

東京工業大学前学長 三島 良直 氏(後編)

大学入試という足かせを外してあげたい、本当に。

校長対談第7回(後編)01

プロフィール
左:三島 良直(みしまよしなお)
1968年武蔵高等学校卒業。1975 年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。79 年カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了。81年東京工業大学精密工学研究所助手。97 年同大学大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻教授。同大学理事・副学長(教育・国際担当)などを経て2012 年10月から東京工業大学学長(2018年3月で退任)。
 

右:梶取 弘昌(かじとり ひろまさ)
1952年東京生まれ。1977年東京芸術大学声楽科卒。1977年武蔵高等学校中学校芸術科非常勤講師。1988年、同校の専任教諭となる。2011年4月より校長。アレクサンダー・テクニック、ドイツリートの研究・演奏を現在でも続けている。
前編より読まれる方はこちら
▶できるだけ若いうちに、外に出よう。
梶取:先生の取り組まれてきた改革に、武蔵で培われた部分はありますか。
 
三島:それは、かなりあります。もう少し正確に申し上げれば、武蔵とUCバークレーですね。この2つが、ものすごく影響しています。
 
梶取:たとえば、どういうところでしょうか。
 
三島:武蔵では、「世界に雄飛」と「東西文化の融合」の2つが印象強く残っています。それで武蔵生のときに英語に興味を持ったというのがありますし。英語が、最初はできなかったんですよ。野球ばっかりやっていて。
 
梶取:(笑)
 
三島:だけど、ぼんやりとではありますが、自分の舞台が世界にあるという感覚を覚えました。もうひとつ付け加えると、私の祖父が海外に出かけることが多くあって、よく羽田まで見送りに行ったのですが、飛行機が飛び立つのを見るたびに、「この飛行機はどこに行くんだろう」と想像していたこととか、いろんな積み重ねがあるのですが、やっぱり世界を見ていかなければいけないという気持ちになりました。それが、後の留学にもつながるわけです。
 
梶取:バークレー校に留学されました。
 
三島:そうです。留学してみると「すごいやつ」に何人も出会ったり、アメリカの学生はどうしてこんなに勉強するんだろうと驚きました。外に自分を置いてみると、日本がよく見えますね。そういう経験をすると、日本の大学は勿体ないと思いますし、先生たちのために大学はあるのではないと強く感じるようになりました。
 
梶取:当時に出会った方たちとのつながりは、いまでも続いていますか。

校長対談第7回(後編)02

三島:もちろん。例えば私が理事・副学長の時ですが、東工大とバークレー校で協力関係を結ぶ話があり、そのサインセレモニーに出席することがありました。そのバークレー側の担当者がなんと留学時の同僚で、彼のアレンジで学長の部屋でサインセレモニーができたとか、思わぬところでいろんな再会があったりします。

梶取:三理想の「世界に雄飛」というのは、お題目では意味がなくて、本当に海外に出ていくとつながりが出てきますよね。
三島:そうですね。だから、東工大改革の案を作っていた当初、1~2年生のうちに、短くても良いので全員を1回は海外に出そうと考えました。財務担当に費用の計算をお願いすると、年間2億円くらいでできるというので、不可能ではないと思ったのですが、必修にすると、どうしても飛行機に乗れないとか、高所恐怖症だとかの問題が出てきて、まだ実現には至っていません。いまは必ず在学中に行くということにしているのですが、効果は早いほうが良いですね。

梶取:そうですね。
 
三島:先生方も、「MITやブラウン大学に学生を10人くらい連れて行くと、帰国してから学生たちがものすごく変わる」と話されます。
 
梶取:見るだけでも良いですよね。
 
三島:見るだけでも刺激があります。
 
梶取:武蔵では、国外研修制度で2ヶ月間、海外に行きます。フランス、ドイツ、オーストリア、韓国、中国、イギリスです。教師は付き添わず一人で行かせるので、現地では日本語が使えません。そのたった2ヶ月間でも、生徒は逞しく変わって帰国します。武蔵から離れることに意味があると考えています。
*「国外研修制度」についてはこちら
 https://www.musashi.ed.jp/kyouiku/kokugaikenshu.html
 
三島:わかります。
 
梶取:海外ではありませんが、総合講座という授業で対馬に行く生徒もいます。民家に住み込んで、炭焼きを体験したりするのですが、普段は親に対して無口な生徒が、帰ってきたらすごく饒舌になる。
自己破壊が起こるんですね。対馬の人と話をして、短期間だけれど生活を共にする経験をするだけで。
 
三島:東工大生にも、もちろん元気な学生がいて、2~3人でケニアのどこかの部落に入って、燃料がないので炭の作り方を教えてくる活動をしてきました。いろんな意味で元気な学生もいるのですが、それでもボリュームゾーンの学生は、「何をやれば良いか言ってくださればやります」みたいな、非常に受け身な学生が多いのが実態です。
▶自調自考だけでは動かない物事がある。
梶取:話は戻りますが、武蔵の三理想、「世界に雄飛」と「東西文化」、「自ら調べ自ら考える」ですが、そんなに易しいことではないと生徒に言います。ただ、それができないとこれから生きていけないと思うのですがどうでしょう。
 
三島:そうですね。大学改革を進めていくプロセスの中で、それを痛感しました。私がやりたいと思うことを教員に説明しますと、反対意見も含めていろんな意見が出てきます。それを全部聞かないといけないのだろうと私は思います。その上でどうするか。決断を下すのは自分なので、そこまでのプロセスが非常に重要なのだと思います。自ら調べ自ら考えて決めたことだけでは物事は動かないこともあります。どれだけ教職員のみなさんと会話をするかというのが、随分と重要なことです。自分の考えが出来上がっていく過程というのはそういうことではないでしょうか。
私が、「こんなふうにやろうと思うのだけれど、どうだろう」と先生たちに何度も提案するので、「すみません。学長、もういい加減にこうしろと言ってもらえませんか。我々も、いつまでも考えないといけないので」というところまでやりましたので(笑)。
 
梶取:よくわかります。いろんな意見を聞くことは大事ですね。
▶言葉は自分を伝える窓。窓は広いほうが良い。
梶取:昔と比べて、武蔵の生徒はおとなしくなりました。
 
三島:
そうですか。
 
梶取:「先生の言うことは正しい」と思っているようです。
 
三島:大学にもそのような学生は多いですよ。
 
梶取:自分の枠を狭くし過ぎていて、いろんなことを考えなくなってきている。これは怖いですね。
 
三島:ちょっと幼稚に見えますしね。
 
梶取:そのほうが、楽なんでしょう。例えば、武蔵の中3では、社会で約5,000字のレポートを書かせます。中学生にとってはかなりの長文で大変です。理科でも、毎週のようにレポートを要求されます。書くことについては、武蔵ではかなりやっています。大学に入り、他校出身の同級生がレポートで苦しんでいるのを横目に、「そうか、自分たちは、しっかりとやってきたんだな」と初めてわかるようです。それでも、「どうやったら先生の点数が良くなりますか」と聞いてくる生徒が時々います。「お前の考えが聞きたいんだよ」と言いたい。そこが、寂しいなあ。
 
三島:そうですね。東工大に、リベラルアーツ研究教育院の上田紀行先生という方がいます。ダライ・ラマとも対話したことがある文化人類学の先生なのですが、レポートを提出するように学生に言うと、「先生、そのレポートには、どういう評価軸があるんですか」と聞かれたそうです。
少なくとも、大学生になってからは、これでは困ります。常々、大学は、高校までの学びと違う学びでなければならないと言っているわけですけれど、中高から全部繋がっていかないと難しいと感じます。

梶取:中学の入試から大学まで、「この子供をどう育てるのか」という一本の軸があると随分と違うと思うのですが。
大学入試改革の話に移りたいのですが、これは我々にとって切実な問題で、いまの中学3年生(注:2017年度の)から影響を受けます。もちろん改革は必要ですが、全国の高校生達のことを考えると「上から目線の改革」と言わざるをえません。大人の都合で改革が進められています。これは大きな問題です。いきなり、「生きる力」を育てると言われても、何をして良いのか分からない。大人目線の改革ではだめです。
また、これからの時代、英語の能力が必要なのは勿論です。しかしその前に母語の力がもっと重要です。私が昨年米国で出会った留学生たちも、「自分たちに欠けているのは書く力」だと言っていました。論理建てて文章を書くには、やはり母語の力が必要なのです。

三島:そのとおりですね。

梶取:グローバルについてもそうです。先生の考えるグローバルとか国際化というのはどういうことでしょうか。
 
三島:グローバル化が進んでボーダーが無くなったから、語学が必要と言われるようになったのですが、私はむしろ逆のように思います。一人の人間が世の中を見た時に、見えるものがグローバルでなければいけないので。だから、英語がうまくなったからグローバル人材になれるわけでもないし、お話いただいたように、自分の考えをしっかりと母語できちんとまとめる力がないと、英語がまとめられるわけがないですから。やっぱり、ベースになる訓練を系統的に子供のときからやって、そうして世界を見るようなことを積み重ねて、世界がいかに広いかということに気づかせる教育をしていかなければいけないと思います。
梶取:世界の広さは、早く気づかせてやりたいと思います。武蔵が第2外国語を重視しているのは、言葉というのは自分を伝える「窓」だと思うからです。「窓」はたくさんあったほうがいいし、広いほうがよい。専門の音楽で例えますと、ベートーベンはドイツ語を話していたからあのような音楽を書いた。ドビュッシーはフランス語を話したから、あのような音楽が生まれたのです。言葉のついた楽曲のことを言っているのではなく、作曲はその作曲家の「窓」である母語に大きく影響されるという意味です。語学を学ぶ意味も同じような意味で、いろいろな言葉を使うことで、さまざまな発想の仕方を身につけることができる。だから英語以外にも、せめてもう一つくらい語学を学ぶことは必要だと思います。

校長対談第7回(後編)03

三島:おもしろい例えですね。
 
梶取:AI(人工知能)の翻訳機能が、どんどん高くなっています。多分、東京オリンピックの頃は、日本語で話すとすべての言語に翻訳されるようになるのではないかと想像します。ですから、いわゆるスキルとしての語学ではなくて、自分の身体を通しての他者とのコミュニケーションが大切となる時代が来ると思っています。発音がだめでも、文法が多少おかしくてもいいのです。この人と話がしたいという思いが先ではないでしょうか。
 
三島:よく理解できます。
 
梶取:国外研修に送り出す生徒に、私は「遊んでこい」と言います。ただ、「出発する前には、しっかり準備しろよ」とも付け加えますが(笑)。ドイツに行くなら、ドイツ語で日本の文化・歴史を語れるようにしていけよということです。なかなか、できないようですけれど。
 
三島:(笑)
 
梶取:「これを勉強しに来ました」と身構えると自分が狭くなります。もっと気持ちが自由になっていれば、いろんなことが吸収できる。政治的には立場の違う国とも交流がありますが、やはり人間どうしの触れ合いは大切です。
 
三島:同時通訳でできないものは、パーソナリティのつながりです。AIの自動翻訳機が出てくれば、英語なんてやらなくても良いという極論も出てくるのですが、そうではありません。
▶世界で一番通用する言語は、ブロークンイングリッシュ。
梶取:たとえばインド訛りの英語と日本訛りの英語で交流する機会もますます増えます。いろいろな場面でも物怖じしない度胸が英語力以上に必要になると思います。正確な英語でなくても伝えるものがあれば、大丈夫です。
 
三島:東工大では、大学院の専門科目の講義を今後2年くらいの間に、100%英語にする計画を進めています。現在でも40〜50%を超えていると思いますが、100%にする計画には、先生と学生の両方から文句が来ています(笑)。教える方の英語力と聞く方の英語力を考えると、「効果は半減します」というのが反対理由なのですが、先生は準備が大変だし、学生は勉強の負荷が余計にかかってしまうというのが本音なんだと思います。
でも、私が言うのは、とにかく英語に慣れておく必要があるから、お互いの英語の能力が違っても、なんとかしてコミュニケーションを取ろうという訓練をしておけば、社会に出た時に絶対に楽だということです。先生がおっしゃるように、世界で一番通用する言語は何かというと、英語ではなくてブロークンイングリッシュです。
 
梶取:先生は、武蔵生の時、最初は英語ができなかったけれど、最終的には英語が得意になられた。あの時代の英語教育は、いまと違うと思うのですが、どのように英語を勉強されたのでしょう。

校長対談第7回(後編)04

三島:一番印象に残っている英語の授業は清水先生の授業です。清水先生は、毎回ガリ版のプリントを出されるのですが、センテンスにいっぱい番号が振られていて、それをどんどん暗記していく。そうすると、間違った箇所が自然に解るようになります。ケネディの就任演説を丸暗記しろと言われたこともありました。三人称単数とか受け身とかいうのが、その訓練の中に全部入っているので、あの英語の教え方は、すごかったと思います。
 梶取:細々した英文法の知識ではなくて、実際に例文を覚えていけば自然に入ってくる。

三島:それから、当時、チャート式のシリーズ物が10冊くらいあって、だんだん難しくなるのですが、文章に穴があって埋めていくものです。それを10冊やったら、ほとんど文法的なものは理解できました。

梶取:非常に古典的な勉強法ではありますが、大事なことだと思います。4技能を分割するのではなくて、まるごとひとつの英文を覚えれば良いということですね。TED*という番組がありますよね。私は、この番組が好きで気に入ったジャンルをよく見ます。この15分くらいのスピーキングをまるごと覚えるだけでも十分かなと思います。
*注:TEDTechnology Entertainment Design)毎年大規模な世界的講演会「TED Conference」(テド・カンファレンス)を開催(主催)している非営利団体。ニューヨークに本部がある。様々な分野の人物のプレゼンテーションをインターネット上で無料配信している。
 
三島:そういう意味で、いまは良い教材がいろいろとあるし、その中でも一番良いのが留学です。
▶大学入試から高校生を解放したい。
梶取:次元が違う話になりますが、高校ですと大学入試があり、当然そこで成果を出さないといけません。武蔵には、山本賞と山川賞を設けていますが、それに応募するのは高2くらいまでです。つまり、高3になると受験勉強で時間がない。もったいないと思います。
これは大学へのお願いでもあるのですが、例えば高評価を得た論文を書いた生徒は、無試験で大学に入れるなどの制度があれば、子どもたちはのびのびと入試を意識しないで好きなことに打ち込めます。
いろんなオリンピックが増えてきましたので、そこは評価されるようになってきました。去年も、地学オリンピックを取った生徒が東大に受け入れてもらえました。そういったものに応募して頑張っている子どもたちは、当然能力も高いですから。

*「山本賞と山川賞」についてはこちら
  https://www.musashi.ed.jp/kyouiku/hyoushou.html
 
三島:東工大の1類で推薦入試をやっています。その条件に、数学オリンピックなどへの出場があります。現時点では、10人受け入れるのに20〜25人くらいしか応募がありませんが、審査と面接をして、合格すれば筆記試験なしで入学できるようになっています。もうひとつはAO入試で、約90人を取っています。推薦入試と合わせると100人。全体で1100人ですから、10%弱。これを入試改革の一環で、文科省は30%にしろと言うのですが、そうすると、300人以上を面接する体制が必要になります。すぐには難しいですが、何らかの工夫をして近づけようと考えています。その方が、1点刻みの試験で決まらなくなるので良いと思いますし、特色のある学生を取れます。多様性を確保できるのと、なにより女子学生がまだ15%なので、もっと増やしたい。AO入試枠での合格者をみると、すでに女子学生は30%程度います。だからAO入試枠の拡大も良いと思っています。
 
梶取:高校生にとって、大学入試という足かせがなくなると本当に自由になれますね。
 
三島:はい。
 
梶取:各種オリンピックでも海外に出かけるチャンスはあります。他校生ですが、毎年入賞し、海外に出かける生徒もいます。このような機会を利用するのもいいですね
 
三島:中学高校のときから、いろんなことにトライできるようにするために必要なことのひとつは、入試を心配せずに過ごせるということですけれども、ひとつ大きな壁があります。それは日本の社会特有のことで、大学に入れたら出さなければいけないと一般的に信じられていることです。そうすると、入り口保証をしないといけなくなる。入り口保証とは、卒業できる学生のみを合格させるということです。そのために、入試でものすごく難しい問題が出て、それを乗り越えなければならない。英語にしても、東工大の前期試験の問題は、ものすごい長文です。その長文を読んで答える問題の出題には、将来、英語の論文を読みながら研究しないといけないからという理由もあるのですが、要するに、入り口で東工大生として4〜6年間やれるであろう力を試しているわけです。
だけど、それが入試を非常に厳しくしている上に、他の大学にもドロップアウトできないから、入り口保証しているように私には見えるのです。
アメリカだと、出身高校と成績、そしてエッセイ。それだけでほとんど合否の判断をしていると思いますけれども、彼らの場合は、かなりの人数がドロップアウトします。ところが、そこにはセーフティネットがあって、UCバークレー校が2年でだめだったとしても、他校に申請すれば取ってもらえるようになっています。仕事もどんどん転職できるし、モビリティが高い社会ですね。それが日本にないのは、ひとつ大きな壁ではないかと思っています。
 
梶取:入試改革の問題は、我々の意識改革でもあるということですね。つまり、「ドロップアウトしてもいいんだよ」という社会になれば、もっと楽になれる。
 
三島:そうです。
 
梶取:これを社会が容認できるのかどうかが我々に問われている。その意味で、この改革は進めないといけないと思いますね。
 
三島:非常に奥の深い問題です。
▶好きなことが、身を助けます。
梶取:今年(2018年春の入試)、東工大に武蔵の生徒が何人、お世話になるかわからないのですが、先生からアドバイスがあればお願いしたいのですが。
 
三島:そうですね。やはり、本当に自分が好きなことに打ち込んでほしいですね。勉強に差し障るというのではなくて、「これが俺は好きなんだ」と思うものは、学生の時代(中高大)にしか打ち込めません。人間として、すごく豊かになるし視野も広くなりますから、心がけてほしいと思います。
 
梶取:先生は、野球部でした。
 
三島:はい。野球は本当に良かった。OB会で、先日、久しぶりに当時の仲間に会って、楽しい時間を過ごしたところです。野球部に没頭して、成績がかなりまずかったので、高1で止めて勉強に切り替えたのですが、それなりに時間を使った自信もあります。
 
梶取:勉強を考えると無駄なことかもしれないけれど、先生には大事なことだったのですね。
 
三島:少なくとも結果論としてはそうです。好きで、ただやっていたというところはありますけれども、やることがいっぱいある時の方が上手く処理できます。時間が余っていたら、やらない(笑)
 
梶取:よく分かります。明日が締切りとなったら必死になります(笑)。
 
三島:それでできてしまうものだから、なかなか改めない。
 
梶取:好きなことを持っていることは大事ですね。そういえば、ビートルズも好きだったとか。
 
三島:はい。留学した時に、まだ英語がろくにしゃべれない時のことですが、金曜日に学生同士でパーティをやるのです。なかなか輪に入っていけない時、ふと音楽の話題になって、ビートルズのことをペラペラとまではいかないまでも英語で話したら、スムーズに輪に入れました。ベースボールの話もそうでした。自分が好きで一生懸命やったものというのは、そういうところで幅を広くします。
芸は身を助けるみたいなところがあって、ましてやギターを弾きながらビートルズを歌ってみせたりすると、お前すごいなってことになりますね。
 
梶取:国外研修の提携校の一つに中国の人民大学附属中学があります。60周年の記念式典に呼ばれ、世界各国の校長と意見交換する機会がありました。共通語は英語です。そのような時でも、1曲英語で歌うと場が和みます。語学力の不足を十分に補いました(笑)。
 
三島:打ち解けますよね。
▶「そんなことは止めなさい」は、どうか言わないで。
梶取:「うちの子は好きなことしかやりません。好きなこと以外は全然やらなくて」と相談される保護者の方がいます。
 
三島:一般論ですが、昔の親は、先生に怒られたというと、「私が謝ってきてあげる」というような感じでした。いまは、怒られたというと先生に文句を言いに行くような雰囲気があります。自分たちの子供になるべく苦労をさせないようにという思いなのでしょうが、私たちの親の時代とはずいぶんと違います。そういう意味では、どんなことでも背中を押してあげてほしいし、子供が何かに挑戦しようとしている時に、「そんなの止めた方が良い」とは口が裂けても言わない方が良いと思います。もちろん、危険なこと、悪いことなら止めるべきですけれど。留学が典型ですね。
「東工大に入って普通に勉強して、卒業したら良い会社に入れるのに、何でそんな苦労しなきゃいけないの」と言う母親がいるという話はよく聞きますので。
 
梶取:「これからの時代、安全な道はないんだよ」とよく言います。武蔵を出て東工大に入っても、別に将来が約束されたわけではない。
そこから先の道を切り開くのは自分です。だから、しっかりと足腰を鍛えろと伝えるようにしています。
 
三島:そうですね。すでに企業は、採用時に出身大学をあまり問わなくなってきました。それよりも、何を学んできたか。「君は何をやりたいのか」とか、「自分の考えを自分の言葉で言えるか」を問うようになりましたね。だから、勉強はしっかりとしてほしい。アメリカの学生に比べると、日本の学生は勉強している時間がものすごく短いです。
▶停滞しているように見えても、子どもは実は伸びている。
梶取:本日は、参考になるお話をたくさん伺いました。子どもたちが好きなことと勉強にしっかり取り組めるようにしたいと思います。ありがとうございました。最後に、先生ご自身の研究のお話など伺えますか。
 
三島:祖父、父、私と三代続けて金属工学が専門です。祖父は、MK鋼という磁石を発明して有名になりました。父は原子力関係の燃料管、私は耐熱鋼を専門に研究してきました。ジェットエンジンの中で、着火して推力を出すところは1400~1500度になるのですが、そこで使う金属材料の開発です。正しい材料を創り出すことにチャレンジするのは、難しいけれど非常に面白かったです。
でも研究で一番楽しかったのは助手の時かもしれません。一番、研究に時間が使えたし、時間があると学生とグラウンドに出て野球をやっていました。学生と一緒にいるというのは、大学の研究者にとって一番うれしいことだと思います。
 
梶取:学生から刺激を受けることも。
 
三島:というか、学生が伸びるのが嬉しい。「こいつ、こんなので大丈夫だろうか」と心配していたのが、卒論の数ヶ月間くらいで驚くほどに伸びるのを目にしたときには、「どうしてこんなに化けちゃったんだろう」とすごく嬉しく思います。
 
梶取:大化けする学生には、準備期間が自分の中にあるのですね。
 
三島:そのようです。
 
梶取:目に見えなくても、停滞しているように見えても、本人の中では、いろいろ伸びている。
 
三島:本当に急カーブで伸びます。ただ、逆に言うと、もう少し早くからしっかりとやっていれば、もう少し早く目覚めて、もう少し上まで行けたのではと贅沢なことも思いますけれど(笑)。とにかく彼らが会社に入ってからも素晴らしく優秀だと聞くと、嬉しい気持ちでいっぱいになります。
 
梶取:武蔵の生徒もそうです。最後に伸びるのですが、あとゴールが200メートル先だったらよかったのに(笑)。「もう少し早くから受験の準備をしろよ」と言いたくなります。男の子は、だから面白いと言えば面白いのですけれど。
 
三島:こればかりは、いまも昔も同じですね(笑)。

校長対談第7回(後編)05

※ 掲載されている情報は、入試情報も含め、取材時(2017年度)のものです。
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