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トップ 校長対談「学びの土壌」第8回(後編)グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー 高宮慎一 氏

グロービス・キャピタル・パートナーズ
代表パートナー 高宮 慎一 氏(後編)

AIの時代だからこそ、人間力を育む教育が必要です。

校長対談第8回(後編)01

プロフィール
左:梶取 弘昌(かじとり ひろまさ)
1952年東京生まれ。1977年東京芸術大学声楽科卒。1977年武蔵高等学校中学校芸術科非常勤講師。1988年、同校の専任教諭となる。2011年4月より校長。アレクサンダー・テクニック、ドイツリートの研究・演奏を現在でも続けている。
 

右:高宮 慎一(たかみやしんいち)
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)では、コンシューマー向けIT領域の投資を担当。投資先には社外取締役として参画し、経営を支援。実績には、アイスタイル、オークファン、カヤック、メルカリ、ナナピなどがある。Forbes Japan「2018年日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」1位に選出。
1995年武蔵高校卒、2000年東京大学経済学部卒(卒論特選論文受賞)、2008年ハーバード大学経営大学院MBA(二年次優秀賞)修了。戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルを経てGCPに参画。
前編より読まれる方はこちら
▶レールを外れて未舗装の道を行っていい。武蔵の教えです。
梶取:大学時代にいちばん関心を持っていたことはなんですか。

高宮:すみません、全然勉強していなくて(笑)。音楽がすごい好きで、70年代に100枚くらいしかプレスされていないライブラリーのジャズのレコードを入手するといったマニアックな世界に入り込み、経済封鎖されて出回っていないキューバのレコードを現地に買いに行くとか、ヨーロッパを1ヶ月間ぐるぐると回って、先々の中古レコード屋で掘り出し物を買って日本に持って帰ってくるということをしていました。

梶取:まさに、深掘りですね。

高宮:オタクですね(笑)。僕は、音楽を作る才能は全然なくて、だけど良い音楽を紡いで雰囲気を作るのは得意そうだったので、プロデューサー的な立ち位置で、フォトグラファーやファッションデザイナーとコラボしてイベントをやったりしていました。ベンチャーキャピタルの仕事も、プロデューサー的な立ち位置で、起業家を支援するという仕事ですから、自分が居心地が良い立ち位置ってあまり変わっていないんだなと実感します。やはり何かと何かの間に立って2つの世界の橋渡しをすることで、世の中に価値を届けるということが好きなんだと思います。起業家は、基本的にクリエーターです。ベンチャー企業そのものが作品と言えると思います。その作品を徹底的に深堀って、世の中を変えようとしている。その中で僕は、起業家に対して、世の中と折り合いをつけるためにはこういうビジネスモデルがいいんじゃないかとか、株主やお客様、規制当局などのステークホルダーとの信頼関係を作って、調整するにはこんな形がいいんじゃないかとか、といった形で支援しています。プロデューサー的な動き方で、同じ立ち位置だなと思います。

梶取:しっかりと、つながっていますね。

高宮:日本の経済社会の中でのメインストリームとベンチャーというサブカルチャーをつなぐところ、日本と世界をつなぐところ、尖った方の人たちの気持ちもわかりながら、マスとの折り合いをつけるところは、すごく好きなことですし、自分が世の中に貢献できる所だと感じています。「レールを外れて未舗装の道に行ってもいいんだよ」と、日本なのにそのような感覚にしてくれたのは武蔵です。感謝しています。

梶取:ハーバードに進まれたのですよね。

高宮:はい、社会人になってからMBA(経営学修士)で留学しました。東大を出て、外資の経営コンサルティングの会社に就職しました。経営を学びたいと修行のつもりで入り、コンサルそのものが好きで、それによって社会を変えるという自分の強い思いが薄かったので、もらっている給料の高さや昇進の速さでしか自分で自分を評価ができなくなってしまい、どこか虚しくなってしまいました。グローバルな仕事をしたいという思いがありましたし、自分を見つめ直すという意味でも、2年間アメリカに行きました。

梶取:自分探しも兼ねた渡米ですね。

高宮:はい。学生なのでお金を稼がないで良いと思うと、極論に振り切る生き方の実験ができました。デザインファームでインターンしたり、起業にもチャレンジしてみたり、生活を考えた時に本当に転職するかと問われたら迷うようなことをやってみました。振り切ってみて、流石に行き過ぎだから少し戻ってきたら、ベンチャーキャピタルというちょうどよいところを見つけられた感じです。
コンサル時代は青い鳥症候群ではないですけれど、何を成し遂げたいのか、気持ちが固まっていなくて、コンサルをやっていればそれが勝手に見つかると思ってしまっていました。それこそ思考停止で、自分自身でWhatを定義する力がなかったなと反省します。

梶取:英語は苦労されなかったですよね。

高宮:表面的にはあまり苦労はしませんでした。ただ微妙なニュアンスや社会的な背景も踏まえてのコミュニケーションなどでは、ほぼネイティブとネイティブとの差が大きいと感じました。

梶取:スキルとしての英語はほぼ完璧でも、それでは人は動かないよということですか。

高宮:まさにそうです。本質的なコミュニケーション力、リーダーシップ、人を動かす力は、スキルとしての英語とは違いました。

梶取:その根底にあるのは、自分のWhatですね。それがあると、人は動いてくれる。

高宮:Whatがあった上で、相手をしっかりと深くわかっているかだと思います。日本人は、日本の文化的背景を理解しているから日本ではうまくやれますが、アメリカで同じようなことをやろうとすると、もう一段難しかったということかと思います。

梶取:日本人同士だと阿吽の呼吸のようなものがありますね。

高宮:はい。阿吽の呼吸、言外のニュアンス、社会的なコンテキストや規範みたいなものが共通しているから、皆まで言うなでコミュニケーションできます。アメリカはサラダボールだから共通項が少ないと言われながらも、やっぱりあるんですね。本当に人の機微をわかってうまくリーダーシップを発揮して動かそうとすると、そこを把握していないと向こうのローカルで活躍しようと思うと厳しいと思いました。それがグローバルの土俵になると、みんな共通の背景がないので、本当の人間力の勝負になると思います。
▶ベンチャーは、人こそが財産です。
梶取:お仕事の話に戻りますが、大変なこともあるでしょう。紙一重で危ない目にも合うし、投資したけれど全然だめだったとか。

高宮:いっぱいあります。

梶取:そういうときは、すごく落ち込むのですか。それとも、また頑張ろうと思うのですか。

高宮:両方ですね。千三つなどと言われるベンチャー投資の世界なので、ある程度、入り口で選んで投資をするのですが、それでも2割バッターだったら優秀という世界です。それでアウトになると、人様から預かっているお金が数億円単位でゼロになってしまいます。そういう世界なので、プレッシャーはあります。でも、いちばん辛いのは、信用していた人が苦境になった途端に豹変し、自分の利益に走り出すといったケースです。人を見誤った、裏切られたなというときがいちばん辛いですね。

梶取:そういうことがあるのですか。
高宮:ベンチャーなので、当初に描いていたビジネスモデルなんて変わって当たり前だし、外部環境もあっと言う間に変わってしまいます。全部が流動的な中で何が一番変わらないかというと起業家自身なんです。僕たちは、そこに賭けているところが大きいんです。だからいきなり投資するケースはほとんどなくて、2~3年をかけて起業家との信頼関係を築いて、その上で投資します。それでも、本当に苦しい時に、本性が出たり、豹変したりします。この人は、自分のことだけしか考えていなかったんだなぁとわかると辛いです。先ほどもあったように千三つの世界なので、ナイストライで失敗してしまった場合は、仕方がないと思えるんです。同じ失敗でも、後味が良いものと悪いものがありますね。

校長対談第8回(後編)02

梶取:逆に、良い部分というのは、その方が成功したり、あるいは失敗しても這い上がってきたりすることですか。

高宮:そうですね。「上場までこぎつけられたのは高宮さんのおかげです」と言われると、少しうるっときます。ベンチャーは、毎日、なんらかのトラブルが発生して、それを乗り越えて行くという感じなので、そういう荒波を同じ船に乗って一緒に乗り越えていった人が成功して、その人に同志と思ってもらえるのが本当にうれしいですし、結果として日本の経済も活性化し、社会課題が解決されていくと思うと仕事としてやりがいがあります。

梶取:人とのつながりが、いちばんの財産ですね。

高宮:そうですね。何に代えても、人ですね。日本では、まだまだベンチャー業界はムラ社会なので、少しでも悪いことをするとすぐに村八分にされるし、良いことをし続けると、村がいつかお返しをしてくれるという感覚があって、それってやっぱり社会の縮図、人間社会の基本だなと思っています。
▶AIは、身体のパーツ単位で人を超えていきます。

校長対談第8回(後編)03

梶取:いまのお仕事では、最先端のテクノロジーに深く関わられていると思います。ひととき、シンギュラリティと言われて、それが2045年に来るという人もいれば来ないという人もいますが、結局、その特異点はどこかで来ると思うのです。いまの子ども達は、その社会変化にさらされることになるでしょう。それをどう使うか、付き合うかが大事だと思うのですが、高宮さんはどのように考えていますか。
高宮:脱線から入ってしまいますが、いまこの時代がすごい転換点だと思っています。IT革命が第3次産業革命だと言われていましたが、ほんの序章に過ぎなかったと思っています。AIやIOTなどの新しい技術体系が、ITをベースにしながら勃興してきていて、そのインパクトは更に大きいと思います。社会制度や人間同士の関わり方の変化に対して、技術のほうが先行しています。社会や人が後付けで変わらないといけないターニングポイントに来ているので、これから激動の時代がくると思っています。更にいうと、シンギュラリティの議論もそうなのですが、技術進歩のジャンプが大きすぎて結果が想像しづらくなってきています。不確実性がめちゃくちゃ大きくなっている時代です。だからこそ、繰り返しになってしまいますが、ゼロベースで考える力が、いままで以上に大切だと思っています。

梶取:なるほど。

高宮:このような時代感の中で、シンギュラリティの議論でいうと、短中期でみると先生がおっしゃるとおり、来るという専門家も来ないという専門家もいます。でも何十年というスパンではいつかは来るという大局観であるのは間違いないと思います。なので、時間軸の設定の問題だと思っています。基本的に人とテクノロジーの歴史は人の身体性の拡張の歴史だと思っています。

梶取:身体性の拡張ですか。

高宮:走るのが遅いから蒸気機関車が出てくる、重いものを持てないからフォークリフトが出てくる、記憶が弱いからメモリーが出てくる、計算力が弱いから演算ソフトが出てくるという話だと思っています。ビジネス側の立場で見ていると、AIの社会実装、実用化はもう少し時間がかかるのではないかと思っています。そうすると、その一歩手前のこの5~7年位の時間軸で何が起こるかというと、AIが人間の脳みそ全体とか全人格を超えるのではなくて、パーツパーツで超えていくという時代がまだ続くと思っています。

梶取:囲碁ではAIが人に勝ちました。

高宮:はい。でもその同じAIは将棋では勝てません。別のAIを作らないといけない。

梶取:なるほど、確かにそうですね。

高宮:身体性のパーツを拡張していくのはテクノロジーだと言いつつも、AIにとって一番難しいのは、身体や感覚のフィードバックを生かして何かを考える作業と言われています。例えば、音楽のゆらぎを心地よいと感じて、その心地よさを感じるから心地よい曲を作曲できるというのは、機械は弱いです。成功パターンを組み合わせることはできると思うのですが、何が本当に胸に響く気持ちよさなんだろうというところは、機械はまだわかりません。

梶取:例えば、バッハ風の曲を作れと指示すればAIは作れる。

高宮:作れます。でも「~風」はできても、感動はしませんね。

梶取:おっしゃるとおりです。

高宮:こんな話もあります。最近改めて話題になっていたのですが、I LOVE YOUを日本語に訳すると愛しているとなりますが、夏目漱石のように、「月がきれいですね」とAIが訳せるかというとまだ難しいと思います。夏目漱石の逸話をAIが知っているから訳せるというのはありますが、ゼロベースで機械がやるのは無理です。

梶取:男と女がいて、「死にたいわ」と言った時に、「愛している」という意味であることをAIは理解しない。

高宮:理解しませんね。

梶取:そこが理解できるAI機器が実用化されるのはまだまだ先ですね。

高宮:相当先だと思っています。万能なAIができてディストピア的に人の社会を管理してしまうのではないかという警鐘を鳴らす専門家もいるのですが、10年では難しいと思います。それを実現するテクノロジーそのもののブレイクスルーも必要ですし、そのブレイクスルーをする過程で、それを制御する方のブレイクスルーが出てくるのではないかとも思います。僕は比較的テクノロジーに対して楽観的で、例えば、車ができたら人が轢き殺されてしまうのではないか、と心配していたら、制度側のブレイクスルーもできて、きちんと人と車が別々に通れるようになったというようなことになると思っています。

梶取:英語翻訳は、いまでさえわかりやすい日本語を入れたら、きちんとした翻訳結果が出ます。音声認識でも理解しやすい日本語で話しかけると各国の言語に翻訳される時代です。学校教育がそのようなスキル伝達型のレベルで終わっていると、学校は必要なくなるし、教員は失業してしまいます。

高宮:そうですね(笑)。

梶取:スキルから先の教育をしないといけません。未来の武蔵生にしても、ただ東大に行きたいというのであれば、別に武蔵でなくてもよいわけです。AIが出てきて、AIロボットが教えれば東大に行ける。

高宮:受験対応だけだったら、AIでもできるかもしれませんね。

梶取:そうではない教育モデルを考える必要があります。

高宮:人をサポートするところまでは、AIが入ってくると思います。癌の画像診断でどんな名医でも見つけられない微かな兆しを見つけて、統計処理することで、この人は3ヶ月後に初期の癌になると診断するAIは、もう実用化されています。でも、本当に癌になるから切りましょうと機械に言われても怖いですよね。信頼関係を築いている先生に、これはかなりの確率で癌になるから切りましょうと言われたら手術する気持ちになる。やっぱり、人が、機械をあくまで補助ツールとして使いこなす部分とか、人と人とのインターフェースを担うというのはなくならないと思うので、人間力はより重要になってくると思います。

梶取:教育のめざすべきものは、結局、人と人との触れ合いだと思います。それがあるから学校というシステムが必要なのだと思います。教育現場では進化し続けるAIを、どう利用していくか。このことが問われる時代になります。

高宮:そうですね。スキル、テクニックの部分はAIにまかせて、人間形成に関するところ、人間力を育むといったところを先生がやる時代になるかもしれませんね。
▶「子育てには正解がない」を受け入れること自体が、いちばん大事です。
梶取:最後になりますが、いまこの対談を読む子どもたち、未来の武蔵生と保護者に向けてメッセージをいただけますか。

高宮:僕自身も、子育てについては悩んでおりまして。

梶取:どんなところを悩んでいるのですか。
高宮:基本的な考え方、理想としては、自分の好きなものを見つけて深掘ってほしい、やりきるという基本動作をつけさせてあげたいと思いますし、なるべく本人が自分でやりたいことを見つけた時にそれができる場所に置いておいてあげたい、オプションを広げておいてあげたいと思っています。ただ、オプションを広げてあげたいと思うこと自体が受験に巻き込まれていくみたいなところがあって、受験よりも好きなことに没頭してほしいと思いながらも、結果的には受験にもどっぷりつかり、一喜一憂してしまう部分があります。そして、本人が、受験なんかいいから自分がやりたいことをやっているからいいんだと本気で思うのであれば、親の価値観とは合わないけれど子どもの価値観では幸せなのかもしれない、どこまで親の価値観の押し付けで、どこまで、もしくはどこのタイミングから子どもの価値観を尊重すべきなのか。すごく悩ましいです。

校長対談第8回(後編)04

梶取:う〜ん。それは、正直で深い悩みですね。

高宮:僕自身は、好きなことしっかり見つけて、それを突き詰めることで社会に貢献して生業にもできたら最高だと思うのですが、その考え方を子どもにも押し付けるべきなのかどうか。僕は、それで良かったと思うんですが、子どもにとって良いのかというのは、すごく迷います。

梶取:我々教師も生徒の関係においても、同じような悩みを持っています。我々は、これが良いことだと思って教育しています。と同時に、教師がやっていることはおせっかいかも知れないのです。

高宮:なるほど。先生でもそうですか。

梶取:良いと思ってしていることが、はたして良いものかどうか。エビデンスはありません。教師の自己満足で、俺が育てたんだと思うようになると怖いですし。武蔵は良い学校だとは思いますが、生徒は自分自身で育っているところもあります。武蔵が育てたわけではない。そう思っていないといけないと思います。

高宮:正解がないからこそというところはありますね。正解がないということを受け入れること自体が、もしかするといちばん大事なことかもしれませんね。

梶取:とはいえ、励まされることもあります。それが、国外研修の制度です。中国の人民大学附属中学という名門校があり、生徒の交換留学制度があります。2010年に、創立60周年記念式典に呼ばれて訪問したのですが、そのとき私についてくれたのが、交換留学生で来ていた当時15歳の男の子でした。彼が話してくれたことですが、「人大附中はいい学校だけれど、教育がすばらしいという意味だけではなくて、武蔵のような学校との交流機会を与えてくれた。それが、いちばんだ。」と。なるほどと思いました。彼は人大附中を卒業後、イギリスに留学しました。

高宮:彼には、良いチャンスになりましたね。

梶取:何かの機会を与えられる。教育とはそういうものかもしれません。

高宮:そうですね。

梶取:例えば将棋の藤井さんです。彼は、両親がいろいろ手をかけたから才能を開花させたのではなく、将棋が大好きだったのです。ご両親がすばらしいのは、彼が詰将棋をやっていても一切邪魔をしなかった。「何やってるの、早く勉強しなさい」というようなことを言わなかったそうです。藤井さんがやりたいことを邪魔をせず、見守ってあげた。だからご両親もすばらしい。子どもに過度な教育をしているわけではないのです。

校長対談第8回(後編)05

高宮:まさに僕も、そういうのが良いと思いつつ、思わず進学塾に入れてしまうわけですよ(笑)。ギリギリまで遊び回っていて欲しいですけれど。子育ては難しいです(笑)

梶取:大丈夫です。お子さんはしっかり育ちます。本日は、楽しいお話をありがとうございました。
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