教育方針

建学の理念『三理想』

建学の理念『三理想』

  1. 東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物
  2. 世界に雄飛するにたえる人物
  3. 自ら調べ自ら考える力ある人物
この『三理想』は、開校初年度の入学式の一木喜德郞(いっききとくろう)初代校長からの式辞を基に、1929年に変更を加え創られたものです。実質的には、当時教頭であった山本良吉(のち第三代校長)が創案したようです。
山本良吉の言葉を要約すると以下のようになります。

「将来、世界の文明が二つ現れるだろう。一つは東洋文明と西洋文明が東の方を廻って、日本で東西文明が新しい実を結ぶ。もう一つは東洋文化が太平洋を渡って、アメリカで実を結ぶだろう。文明と言えば西洋の文明と言うような考えが日本には満ちていた。これをどうしても壊さなくてはいけない。それで『東西文化』と言ったが、実を言えば東の方を拡げなければならないと考えた。また『世界に雄飛する』の意味は、日本の文化、東洋の文化を世界にもつと拡げなくてはいけない。そのような人間を作る必要があるという意味である。また、『自ら調べ自ら考える』は、従来の暗記中心の「注入主義的」な教育に対し、『自分の頭で考える』ことをすすめるもので、教えるとは人生に必要な一切の知識を与えることではなく、『よく自ら考え、自ら判断する』ための力を養うことが肝要である。」

武蔵が創立された1920年代と現代の時代状況は異なっており、この『三理想』は現代的なとらえ直しをする必要があります。しかしながら、現在、私たちが直面する、「先行き不透明で解なき時代」を切り拓く人間を育成する上で、武蔵で受け継がれてきたこの『三理想』は色あせないどころか、極めて有効な教育指針となっていることに驚かされます。

現在、私たちは人口減少・超高齢化、AIやDXなど技術革新のさらなる進展、環境問題の深刻化、国際情勢の緊迫化、グローバル化と格差の拡大などが進む、まさに「先行き不透明で解なき時代」に直面しています。

とりわけ、これからの日本は、これまで経験したことのない人口減少が進む中で、国内市場も縮小し、労働力不足も深刻になっていくでしょう。そうした中、日本人が海外で活躍する必要性がますます高まるだけでなく、日本で生活する外国人の数も飛躍的に増えていくことが予想されます。「外なるグローバル化」だけでなく、「内なるグローバル化」が進んでいくこれからの時代にあっては、グローバル化への対応はもはや特定の人だけの問題でなく、国民全員にとって不可欠の時代に入ってきています。さらに、グローバル化が進む一方で、民族や宗教の違いなどによる紛争が絶えない国際社会においては、文化の多様性をいかに認め合い、共生社会を構築できるかが本当に重要な課題になってきています。
この点について、日本人の果たすべき役割と可能性は大きいように思います。自らの主張をしっかり行いつつも、日本人の持っている勤勉性や協調性、寛容の精神などを日本人が発信していくことは、世界の平和と繁栄を構築する上で、大切なことではないでしょうか。世界につながるだけでなく、世界をつなげる日本人でありたいと思います。

そして何よりも、これからの時代においては、自分で課題を発見するとともに、主体的にその課題を解決していこうとする「自ら調べ自ら考える力」が、ますます求められています。学ぶ楽しさや喜びを知ったうえで、困難な課題に対しても、前例にとらわれない自由な発想ができる「独創性」と、他者への共感力を持ちつつも様々な視点から問題解決にアプローチできる「柔軟性」が求められています。

根津嘉一郎初代理事長は、渋沢栄一渡米実業団の一員としてアメリカを歴訪し、そこで「社会から得た利益は社会に還元する義務がある」という思いにいたり、1922年に武蔵を創立しました。根津翁には、「国家の繁栄は育英の道に淵源(えんげん)する」という言葉もあります。英才を育てることが、開校以来、武蔵には求められてきました。

「先行き不透明で解なき時代」だからこそ、武蔵が目指してきた、真に信頼し尊敬される「独創的で柔軟なリーダー」を育てる上で、建学の理念である『三理想』は、ますます重要になってきています。

武蔵はその教育方針として、『三理想』を基盤にしたうえで、次の百年を見据え、『新生武蔵』の旗を掲げました。武蔵の良さを生かしながら、新たな時代を見据え、進路希望の実現やグローバル化のさらなる進展、武蔵本来の教育とICT教育との融合など、進化し続けていきたいと考えています。