校長散歩
2026.04.22
- #行事
886 創立記念講演会-涌井史郎さん「自然共生文明と持続的未来」-

4月16日、大講堂を会場に創立記念講演会が開催されました。創立記念講演会は、武蔵の創立記念日である4月17日に際し、長く行われていたものですが、いつしかその伝統は消えていきました。しかし、創立百周年を機に復活。4回目の今年度は造園家の涌井史郎さんをお招きし、「自然共生文明と持続的未来-Living in Harmony With Nature!」という演題でお話をいただきました。
涌井さんは昭和20年生まれ。「そのときの世界の人口はどのくらい?」という質問から始まりました。当時はおおよそ28~35億人。そして現在は80億人を突破しています。この間に一体何が起きているのか。
産業革命以降、人々はみな平等、誰もが取り残されない地球と信じていました。一方で、地球環境がその限界点である「プラネタリーバウンダリー」を越えていく中で、弱肉強食の世界が進み、分断、格差、飢餓や、それゆえのテロ・戦争、小競り合いが始まっている。
この間の「プラネタリーバウンダリー」を示す重要な指標が、大気中のCO2排出量、世界の平均気温、そして生物多様性の減少である。特に、生物多様性の減少という点では、驚くべきペースで個体数が減少している一方で、人口が急増している。46億年の地球の歴史を1年365日に例えると、人類の登場は年末の1日しか過ぎない新参者なのに、この間の人類の急増カーブは、長い地球の歴史の中では「絶滅曲線」とも言える形を描いていると指摘されました。
そうした危機的状況の中で、どんな世界を目指せばよいのかという問いかけがされました。それは一言で言えば「自然共生」というエコシステムであり、それを実現するうえで、日本の長い歴史文化の中で培われてきた、世界に誇りうる究極のモデルが「里山(SATOYAMA)システム」であると語られました。日本の国土は美しいが、そこをよく眺めてみると自然と共生する叡智がある。自然災害のある国だからこそ、自然に抵抗し営造物で対処する「緩和戦略」ではなく、適応して自然の力を借りる「適応戦略」が取られてきた。是非、そうした視点から日本の自然を観察してほしいと生徒への示唆を示していただきました。さらに、若い世代にとって当たり前になるAIとどうやって共存するのか、日本人の持っているセレトロニン遺伝子S型の意味とは何か、そして新しい世界へのメッセージを発するために、2027年3月から横浜で開催される「GREEN×EXPO2027」に、チェアパーソンとして就任されている思いも紹介していただき、「地球の新参者である人類による自然のエコシステムの破壊、プラネタリーバウンダリーの時計の針を少しでも戻し、諸君らの持続的未来を確実にするグリーン・ナイトが生まれることを期待する」と熱いエールで講演は結ばれました。
その後、生徒との質疑応答。田園都市構想などこれまでの具体的なプロジェクトの進め方、博覧会の理念や跡地活用、里山に変えていくためのステップなど、時間の許す限り、生徒たちからの様々な質問に丁寧に答えていただきました。
また、涌井さんは冒頭、進路選択についてのアドバイスもしていただきました。涌井さんは造園家という肩書で紹介されますが、学生時代、自分の進路を決めるときにやろうとしたのは「自然生態系応用土地利用計画論」。当時はその領域は社会的にも認知されていなかったし、そんな訳の分からないことをやるなとも言われた。でも、自分の夢に素直にしたがって、必ず未来にはそれが必要と覚悟を決めて進路選択をした。今思うことは、「その道を選択して良かった」。「今の流行りすたりではなく、将来の世界を想像して、自分の進路を決めるといいよ」というアドバイスも、生徒たちの心に響いたと思います。
最後に、熱心に耳を傾け、また質問も途切れることなかった生徒たちを前に、「武蔵はすごい!」と嬉しい言葉を言われて会場を後にされました。そして芳名録にも、武蔵生に向けた素敵なメッセージ(「景観十年 風景百年 風土千年」)を残していただきました。地球の未来と若い世代への希望を熱く語っていただいた涌井さんに、こちらこそ御礼を申し上げたいと思います。
有難うございました!