校長散歩

2025.04.21
- #その他
756 創立記念講演会-柳沢正史先生(53期卒)

4月17日は武蔵の創立記念日です。今から103年前の1922年(大正11年)4月17日、旧制武蔵高校の第1回入学式が行われました。その日を記念して、4月17日の午後、大講堂を会場に創立記念講演会が開催されました。
今年度の講演者は、柳沢正史さん(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長、53期卒)。演題は「睡眠の謎に挑む~健やかな睡眠からはじまるウェルネス~」でした。
柳沢先生は、睡眠研究の世界的権威でもあり、メディアにもたびたび取り上げられています。
講演はまず生物の進化の過程で生まれてきた「睡眠」という事象について、「なぜ眠らなければならないのか」「そもそも眠気の正体は何か」という現代神経科学における最大の謎への問いから始まりました。
続いて、眠気の行動学的定義、覚醒からレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返す睡眠のサイクル、年齢別による睡眠時間の変化、国際比較から見た日本人の睡眠の特色、昼間の眠気の意味、睡眠による利益と睡眠不足による弊害、眠気の制御機構、朝型と夜型の問題、スマホと睡眠との関係、入眠習慣の工夫など、睡眠に関する広範囲な話題が展開されたあと、新しい脳内物質であるオレキシンを発見したときのエピソードが披露されました。マウスを用いた研究をする中で、最初は食欲をつかさどる物質かと思っていたけれど、意外にも睡眠覚醒を制御する物質であることがわかったこと。そして、その後、不眠症治療にも役立つオレキシン拮抗薬の開発につながった研究の流れについて、動画も使いながらわかりやすく説明していただきました。さらに「睡眠時無呼吸症候群」のリスクを低減するために、睡眠状態を在宅で手軽に検査できる睡眠計測サービスの開発・普及や、ゲーム機と連動して楽しく睡眠指標を改善するPokémon Sleep(ポケモンスリープ)の監修など、社会実装に話は及びました。

結びに武藏後輩に対して、①人と違っていることを厭わず、人からどう見られているかを気にしない。②良い問いを見出すことは問いを解くよりも難しい。③外に出て初めて見えてくる日本もあることから、将来、一度は外国で暮らそうとの三つのメッセージを贈っていただきました。さらにオキシトン発見の体験を踏まえ、「真実は仮説より奇なり」との言葉でレクチャーは締められました。科学を追い求めてきた研究者の神髄を感じさせてもらえる言葉でした。
90分に及ぶ講演のあと、30分の質疑応答時間もとっていただきました。生徒からは「睡眠をなくすことは可能なのか」「研究のモチベ—ションは何か」「武蔵での6年間はどのような影響を与えたか」など10本以上の質問が相次ぎ、時間の許す限り、一つ一つ丁寧に答えていただきました。
講演前は、「ホームグラウンドに来たようで少し緊張する」と語っていた柳沢先生。終わった後は「男子ばかりの1000人の武蔵生は楽しかった」とニコっと笑っていただきました。
本当にお忙しい中、武蔵生のためにお時間を割いていただいた柳沢先生に、この場を借り、改めて感謝申し上げます。
有難うございました!